「キー・ラーゴ」(ジョン・ヒューストン)中央公論2016年11月

 私は若い頃はカナダへ留学していたのだが、その後神経を病んで飛行機に
乗れなくなり、最後に海外へ行ったのは二十二年前である。ヨーロッパもま
だ行ったことがなかったので、当初は悲観したものだが、次第に諦めがつい
た。その上飛行機が禁煙になったから、どのみちこれでは行けないとさらに諦
めがついた。なおJR東日本の新幹線も禁煙になったから、東北方面も行け
なくなった。ところで、飛行機が怖いと言うと「船で行けば」と言う人がい
るのだが、普通に海外へ行くための旅客船というのは、一九七〇年代頃には
もうなくなっていたようで、今の旅客船は世界一周とかクルーズ専用である。
 するうち、グーグルマップとかストリートビューというのができた。これ
は画期的で、いながらにして世界のたいていの場所をそこへ行ったように見
ることができる。これなら、別に面倒な思いをして海外へ行くことなどない、
とまた楽しくなった。
 「キー・ラーゴ」は、フロリダの冲にある島を舞台としたサスペンス映画
である。マクスウェル・アンダーソンの戯曲の映画化だが、これの邦訳はな
いようだ。戦争帰りのハンフリー・ボガートが、キーラーゴ島の旅館にやっ
てくるが、ハリケーンが近づいていて、しかもボガートはそこにギャングのボ
スがいるのに気づいてしまい、殺人事件が起きて、保安官が来るが、ギャン
グは旅館の主人らを人質にとって保安官に本当のことを言わせず、ついにボ
ガートをボートに乗せて脱出するが、ボガートがギャングをやっつけて島へ
帰るという犯罪もので、妻のローレン・バコールも出ている。
 さて、この映画を観て、グーグルマップで「キー・ラーゴ」の場所を確認
して驚く。フロリダ半島の南端から、エビのヒゲのような土地がずうっと続
いていて、その途中にキー・ラーゴ島がある。グーグルマップは拡大できる
から、驚嘆の時である。こんなところで人はどうやって生活しているのだろ
うと思う。この拡大できるところが、グーグルマップの醍醐味で、地図と一
緒に楽しめる映画だと言えるだろう。