英文科のころ

 英文科にいた当時の、茫漠たる思い出である。洋風の広い飲酒所みたいなところで、英文科の同期の連中が集まっていたから、四年生になった1985年4月の、新三年生歓迎の二次会でもあったろうか。

 私のそばに、ちょっと親しかったKというのがいて、もう一人誰だか忘れたが、ひそひそ話をしていた。どうも女の話らしかった。すると、私と同じクラスから来たNというのが、仲間に入りたいと思ったのか、「俺も多岐川裕美なら」とかあまり関係ないことを言って加わろうとした。するとKが、冷たい目をして「あ、加わらないほうがいいよ、危ない話だから」か何か言ったのである。それはあたかも、俺たちは女をシャブ漬けにしてフィリピンへ売り飛ばす相談をしているんだという具合で、Nは気を飲まれて引いてしまった。Kはけっこう顔のいい男だった。私は脇で黙って聞いていた。

 Nは就職し、Kは大学院へ行って学者になり、その後いろいろごたごたした。何しろ二十歳くらいだから、何だかよく分からない。