2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

学会誌『比較文学』が届いたのでぱらぱら見ていたら、書評のところで、さる論文集の書評に、村上春樹のフランソワ・ジョルジュの翻訳に誤訳が多いということが書いてあった。しかし、サイデンステッカーの『山の音』もけっこう誤訳があって、半世紀たつのに…

名文だけで小説が書けるのか。

山口翼『志賀直哉はなぜ名文か』(祥伝社新書)に目を通した。 著者は1943年生まれなので、今年70歳になる。スタンフォードと慶大を出て、統計・計量経済学を学んだが、小説家になりたくて大学院を中退、1970年に渡仏し、語彙を増やそうと日本近代文学の名文…

2012年小谷野賞

2012年の小谷野賞に該当する作品は、ついに見つからなかった。この賞の条件は、私の知り合いでないこと、他の賞をとっていないことだが、別にこの条件が厳しいわけではないだろう。 さてそこで、2012年の著作ではないが、安藤健二氏のこれまでの業績に対して…

藤間政弥と吾妻君子

某文献を見ていて、二代目河原崎権十郎と藤間政弥の間に吾妻君子という、吾妻徳穂の異父姉がいたことを知った。政弥(1887-1957)は十五代市村羽左衛門との間に庶子として吾妻徳穂を生んだとされているが実は大河内輝剛の子だが、それ以前に二代目権十郎との…

石川淳の短編集『天馬賦』というのがある。『海』に載せたものだが、単行本にする時、編集者が「てんばふ」と言ったら、石川が「あれは『てんばのふ』です」と言ったので、編集者が困ったと、宮田毬栄の本にある。なんで困るのか分からないのだが、単行本、…

長島寿義(ひさよし、1900年-1973年)という人のことを調べた。東京外国語学校仏語科卒、1923年に渡仏するが、戦時中、敵国人として抑留されたというのだが(速川和男、川村ハツエ、吉村侑久代『国際化した日本の短詩』中外日報社、2002)日本とフランスは戦…

水上勉親子どんぶり物語

窪島誠一郎(1940− )の『父水上勉』を読んだ。水上は正式には二度結婚しているが、それ以前に同棲していた女が産んだのが誠一郎、本名・凌である。生活が苦しく、生母が明大前のうどん屋の窪島家に養子に出し、誠一郎は実の父が誰か知らずに育った。 養父母…

「来週」「来春」問題

(活字化のため削除) (小谷野敦)

出久根達郎の『諏訪根自子』の朝日での短評を見てきたんだが、まず死去が半年報道されなかったことで「忘れられていた」とするのだが、それは単に遺族がマスコミに知らせなかったからであろう。長谷川町子だって一か月くらい遅れたんだが、出久根はマスコミ…

山口百恵の「伊豆の踊子」が思っていた以上にいい出来だった。当時は、踊子が全裸で飛び出してきて手を振る場面が話題になり、山口が肉色のぴったり服を着て出ていたとされた。その後、「祭りの準備」では胸まで見せていた竹下景子が、ドラマ「天の花と実」…

この四月から、博士論文をネットで公開することが義務づけられたという。以前のものではなくて、四月以降に取得したものだ。 だが、博士論文は一般的に、著作として刊行されるものである。著作として出すのに、ネット上にあったら、買う人などいないだろう。…

昨日はDVDで『セールスマンの死』の1951年の映画を観た。妻にその話をしてから、大学生の時、文三で同級だった女子が、「『サラリーマンの死』を観てきた」と言った、という話をしたら、きょとんとしている。もう一度言ったが、「え、それ、どこかおかし…

ボナパルティズムについて。

私の「ボナパルティズム」という語の理解が間違っているという指摘があった。ボナパルティズムは、狭い意味では、ナポレオン三世の政治であり、広い意味では強権的政治である、という。 私の用法は、細川護熙が総理になった時、浅田彰が盛んに、「近衛の孫」…

著者は誰か 問題

徳川時代後期に、越後の人・鈴木牧之が著したとされる『北越雪譜』という本がある。大変有名なもので、越後における雪国の様子を活写した地誌である。牧之は越後の裕福な商人で、はじめ原稿を曲亭馬琴に預けていたが、馬琴が、このままでは刊行できないとし…

新刊です

日本人のための世界史入門 (新潮新書)作者: 小谷野敦出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/02/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 31回この商品を含むブログ (27件) を見る訂正 47p「四二・一九五キロメートル」は近代オリンピックで始まった。本来は四…

春画とAV

『週刊読書人』に、辻惟雄と木下直之の、春画に関する対談が載っている。 私はここ二十年ほど、一部学者の間での春画ブームに懐疑的なのだが、これは、ロンドンでは春画の展覧会が開かれたのに日本ではなぜできないのかという問題が中心である。 とはいえ、…

島比呂志(1918-2003)の『「らい予防法」と患者の人権』(社会評論社、1998)に、「宿命への挑戦」として、生田長江を論じた割と長い文章が収められている。自身がハンセン病患者であった島が、長江がハンセン病だったと知って調べたものである。ところがこ…

私は近ごろ、日本の近世文化は低劣なものだとしつこく言っているので、怒っている人もいるだろうが、あれは、好きな人は好きでよいので、「みんないいと言うけれど、そうかなあ」と思っている人が、やっぱりそうか、と思ってくれればいいのである。 さて、浮…

さて宮嶋博史の論だが、朱熹の中に、家父長制を強化する思想があって、それが「近代」だというのを仮に認めるとして、思想は実現されなければ、その文化が「近代」になったとはいえない。ましてや宮嶋が扱っているのは朝鮮である。 私は修士論文で、「宇治十…

與那覇潤『中国化する日本』は、版元から送られてきたのだが、読み始めて、とてもまともに読めない書き方がしてあったので、中途で捨てた。で、前からアマゾンレビューや『読書人』か『出版ニュース』で批判していたのだが、與那覇は東大の比較日本文化論と…

佐藤亜有子が43歳で死んでいたことが分かった。文藝賞優秀作『ボディ・レンタル』で話題になり、大江健三郎の後輩の東大仏文科卒ということでも騒がれたが、その後は振るわず(しかし篠原一はどうしたのだろう)、大作『東京大學殺人事件』も、出身校を売り…

私は中学生のころ、男女平等主義者だった。今でも実際はそうであるが、当時は、そういう意識が社会に乏しかった。それで、テレビドラマなど観ていると、普通に差別的なせりふが出てきて怒っていた。たとえば『中学生日記』で、教師が「女子は結婚して家庭に…

松本清張に憧れなかった。

著書訂正というわけではないのだが、 『日本恋愛思想史』などで用いた、浜田啓介「読本における恋愛譚(ロマンス)の構造」は、同氏著『近世文学・伝達と様式に関する私見』(京大学術出版会、2010)に収められていた。近世文学・伝達と様式に関する私見作者…

六車由実さんの『驚きの介護民俗学』を読んでみた。ウェブ連載時にも読んでいた気がするのだが、 うーーーーーーん。 六車は、東北芸術工科大学准教授を突然辞めて、介護士になり、静岡県東部の施設に勤めている。それでなお民俗学的な聞き取りをしているわ…