2012年小谷野賞

 2012年の小谷野賞に該当する作品は、ついに見つからなかった。この賞の条件は、私の知り合いでないこと、他の賞をとっていないことだが、別にこの条件が厳しいわけではないだろう。
 さてそこで、2012年の著作ではないが、安藤健二氏のこれまでの業績に対して、ということで授賞することにした。『封印作品の謎』1,2(2004、06、太田出版、のちだいわ文庫、2は『封印作品の闇』と改題)、『封印されたミッキーマウス』(洋泉社、08、のち『ミッキーマウスはなぜ消されたか』河出文庫)などである。安藤氏は、『ウルトラセブン』「遊星より愛をこめて」、『怪奇大作戦』「狂鬼人間」、『ジャングル黒べえ』、『キャンディ・キャンディ』などがなぜ封印されたか、従来知られていたことをさらに突っ込んで取材し、実に冷静に描いている。『ミッキーマウス』における、タイタニック号から生還した日本人の話も面白い。
 特に「遊星より愛をこめて」について書こうとすると、円谷プロからいかに圧力がかかるか、満田かずほへのインタビューの試みが、満田の徹底的な拒否に終わるあたり、圧巻と言っていい。本来ならノンフィクション賞をとるべき作品だが、それこそタブーに挑んだため業界のタブーで賞がもらえないのであろうから、これは私が顕彰しなければならないと思ったのである。
 なお、ここで「封印作品」とされた『ジャングル黒べえ』は、今では復活している。
 また付言すると、天野ミチヒロ『蘇る封印映像』(三才ブックス、2007)に、ひし美ゆり子へのインタビューがあるが、これも、アンヌ隊員時代の写真がない。つまり「遊星より愛をこめて」に触れると、それも使わせてもらえないということである。
 三月でニコニコ動画を退社したようだが、すべからく、ルポルタージュなどを書こうという人は、安藤氏に倣っていただきたいと念じるものである。