六車由実さんの『驚きの介護民俗学』を読んでみた。ウェブ連載時にも読んでいた気がするのだが、
 うーーーーーーん。
 六車は、東北芸術工科大学准教授を突然辞めて、介護士になり、静岡県東部の施設に勤めている。それでなお民俗学的な聞き取りをしているわけだ。同じ、大学辞職組として六車さんには勝手に共感を抱いているのだが。
 売れているようである。だが、ただの介護士の記録だったら、売れなかっただろう。元大学教員で博士号があって、サントリー学芸賞もとった人が書いているという関心で売れているのだと言えなくもないし、現に私自身もそういう関心で読んでいる。
 やっぱり甘いのである。だいたい私が「六車さん」などと「さん」づけにしてしまうところが、もう甘いのである。六車は1970年生まれで私の八つ下だが、あとがきを読んで、ああこれはいかんと思ったのは、両親が元気で、体を張って六車を支えているとある。私のように両親ともいなくなると、世界は違って見える。六車が、施設の老人たちを、自分とは違うものとして見ているのはそのせいだ。
 六車はこれからも介護の仕事を続けるつもりなのだろうか。現に六車は各種マスコミに登場していて、一般的な介護士とは違う立場に立っている。そのことが、同じ施設の他の介護士からどう見られているか。結局この人は、また「学者」の世界へ戻って行ってしまうのではないか。そういう雰囲気が、視線を甘くする。佐江衆一辺見庸が、下層の人間の間に立ち混じって本を書いたのと同じ現象である。  
 しかし「かわずの夜回り」を知らなかったのだろうか。