アリス・ドレガー「ガリレオの中指」を読んだ

 著者はシカゴ郊外にあるノースウェスタン大学の元

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教授で、科学史・医学史が専門の女性だが、生年は不明で、恐らく私と同じくらいだろう。『クイーンになろうとする男』という本を書いたマイケル・ベイリーについて書いたためキャンセルされたと思っている人がいるが、ベイリーはトランスジェンダーは同性愛かオートガイネフィリアだと書いたりしてキャンセルされたが、ドレガーは大学がPR誌を検閲したりしたことに不満で自ら辞職している。もっともテニュアはなかったので不安定な地位ではあった。

 確かにドレガーは激しいトランスライツの活動家とは違って、学問の自由と、討論を進める論者である。訳している鈴木光太郎も、「オオカミ少女はいなかった」とか「謎解きアヴェロンの野生児」を書いている心理学者(新潟大学名誉教授)で、小倉千加子「セックス神話解体新書」のあと始末をしている人である(ウィキペディアの記述があまりに古かったのでエンペディアに立項し直しておいた)。

 しかしドレガーは根が「リベラル」なので、ここでは「ヤノマミ」関係でキャンセルされたナポレオン・シャグノンと面談しつつ、いきなり『サモアの思春期』のマーガレット・ミードを擁護し始め、デレク・フリーマンを非難しているが、これはミードを擁護し過ぎじゃないか。

 そのあとは出生前デキサメタゾン治療の話が続いており、必ずしもベイリーについて突っ込んだ話にはなっていない。

小谷野敦