1971年から75年まで、新潮社から「書下ろし新潮劇場」という戯曲のシリーズが28点刊行されていた。当時、唐十郎やつかこうへいの小劇場がブームだったせいだろうが、別役実や安部公房、井上ひさし、秋元松代、山崎正和など劇作家や戯曲も書く人のほか、辻邦生、佐江衆一などこれが唯一の戯曲という人までいる。ラインナップは、
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移動 別役実 1971
未必の故意 安部公房 1971
舟は帆船よ 山崎正和 1971
七本の色鉛筆 矢代静一 1972
八百屋お七牢日記 田中千禾夫 1972
にぎやかな部屋 星新一 1972 (上演されたらしい)
愛の眼鏡は色ガラス 安部公房 1973
結婚記念日 富岡多恵子 1973 (俳優座で上演)
珍訳聖書 井上ひさし 1973
ベンガルの虎 唐十郎 1973
実朝出帆 山崎正和 1973
スタア 筒井康隆 1973
天保十二年のシェイクスピア 井上ひさし 1973
ポセイドン仮面祭 祝典喜劇 辻邦生 1973 (劇団四季で上演)
鴻 (おおとり) 吉田知子 1973
死海のりんご 大庭みな子 1973 (劇団雲で上演)
鍵の下 田中千禾夫 1974
椅子と伝説 別役実 1974
悲しき恋泥棒 矢代静一 1974
新四谷怪談 喜劇 遠藤周作 1974 (青年座で上演)
夜叉綺想 唐十郎 1974
緑色のストッキング 安部公房 1974
二人で嘘を 飯沢匡 1975
困った綾とり 佐江衆一 1975 (文学座アトリエの会で上演)
たいこどんどん 井上ひさし 1975
幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門 清水邦夫 1975
ウエー 新どれい狩り 安部公房 1975
アディオス号の歌 秋元松代 1975である。劇作家の場合は普通上演されているし、再演を重ねているものもあるが、それ以外に上演記録のあったものは記しておいた。上演記録が見つからないのは吉田知子くらいである。その吉田の「鴻」を読んでみたが、これは日本書紀などにある武烈天皇の最後を描いたものだ。2015年ころに芥川賞候補になった高尾長良の「影媛」はこの武烈紀に出てくる女性を描いたもので、物部アラカビの娘で、婚約者の平群鮪を王に殺されて和歌で答えているが、これはそのあとの話で、大伴金村などが登場してきて、最後に王を殺害するところで終わっている。記紀にある記述では武烈天皇は普通に死んでいるが、この武烈の暴虐というのは、実はまったく違う王朝の継体朝に変わったことを正当化するためのフィクションだと考えられている。
(小谷野敦)
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