2023-12-05から1日間の記事一覧

伊藤整の「泉」

伊藤整は、英文学者・翻訳家・小説家・詩人・評論家だが、存命中に小説で文学賞をもらったことが一度もなく、死んでから『変容』で日本文学大賞をとっている。 伊藤の小説は、初期には純文学的・私小説的なのだが、戦後1950年代から「誘惑」とか「感傷夫人」…

新資料で書くこと

秦恒平の「神と玩具の間」は、谷崎潤一郎に捨てられた二人目の夫人・丁未子の書簡を入手して書かれたものだ。河野多恵子の「谷崎文学と肯定の欲望」も、新資料を入手して書かれていた。 博士論文を書く時に、新資料の入手が必要だという考え方が以前はあった…

柏原兵三の遺作「独身者の憂鬱」

柏原兵三(1933-72)は、大江健三郎と同期の友人だが、独文科へ進み学者になり、68年に「徳山道助の帰郷」で芥川賞をとったが、東京芸大助教授だった72年2月に急死した。38歳だった。 「独身者の憂鬱」は中編で、「独身」として「新潮」71年9月号に一挙掲載…