先ごろ亀井俊介先生が亡くなり、1987年に岩波新書から「マリリン・モンロー」を出したことが話題となっている。お硬い岩波がモンロー、というのは驚きであった、みたいな話である。だが、私はその当時から、これが驚きだとも、新しいとも思わなかった。何しろマリリン・モンローなんて、私が生まれる前に死んだ昔の人で、セックス・シンボルだったと言われたって、87年当時はアダルトビデオの全盛期で、黒木香もいたのだから、モンローなんてのはいかにも1920-30年代生まれのおじさんが好きそうだなと思っただけであった。
実際、1925年生まれで、三島由紀夫と同年の丸谷才一は、石川淳や大岡信とやった連句で「モンローの伝記下訳五万円」とやったという話は大岡が講演で面白おかしく披露していた話で、私はそれを聞いて、この世代はモンローが好きだな、と思ったもので、野坂昭如だって「マリリン・モンロー・ノー・リターン」などと書いたり歌ったりしているので、むしろ古めかしいので、私には亀井先生もその世代特有の好みを明らかにしただけだと思った。現に1990年に東京で国際比較文学会が開かれた時、芳賀先生が「アメリカのヒーローとヒロイン」として、ターザンとマリリン・モンローをやろう、などと言って、鶴田欣也先生が「そりゃ面白いね」と言ったのも私は聞いていたのである。