2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

作家は嘘つきであるか?  「星座」2018年4月

作家は嘘つきであるか? 小谷野敦 「作家(小説家)は嘘つきである」というようなことを言う作家がいる。そんなに昔からある言葉ではあるまい。萩原朔太郎が「すべての文学者は嘘つきである。特に小説家は大嘘つきである。なぜなら小説に書いてることは、皆…

栗本鋤雲:大節を堅持した亡国の遺臣 (ミネルヴァ日本評伝選) アマゾンレビュー

小野寺龍太 著者が右翼っぽい星3つ 、2021/06/251945年と敗戦の年生まれの九大工学部名誉教授だが、年齢の割に右翼っぽい。シナと書いたり九条改憲論らしい(150p)のはともかく、天皇崇拝家で、維新前のアイヌについて「日本の皇化がまだ北緯四九度の地ま…

山家望「birth」(太宰治賞)あらすじ

作者は男だが、主人公は女。1997年生まれの市之瀬ひかる。舞台は2019年5月。住所は横浜で、ひかるは二歳まで母に育てられたがそのあと母に棄てられたのか、施設で育って高卒後はアルバイトで生計を立てている。馬見所というところで母子手帳を拾い、母親が名…

「長くつ下のピッピ」の思い出

大学生の時、私は「児童文学を読む会」で、夏になると合宿へ行っていたが、あれは二年生の時だったか、合宿での読書会で「長くつ下のピッピ」が取り上げられた。四年生の男子でのちNHKへ入ったKさんや、そのKさんとのち結婚したGさんもいた。 私と同期のIが…

大庭みな子「夢野」アマゾンレビュー

祖母殺害事件星2つ 、2021/06/191983年に「東京新聞」など三社連合1945年生まれの津樹子という、津田塾大学をモデルとした学校を出た女と、その母、また亡夫と関係のあった女などがさまざまからみあうが、中心になるのは1979年に起きた朝倉季雄の孫の祖母殺…

「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」アマゾンレビュー

アル・パチーノ 嫌な感じ星1つ -、2021/06/15三人の生徒のいたずらというのがタチが悪く、この三人の名前を言わないことに高潔性はみじんもなく、かといって言えば仲間でもないのに「告げ口」扱いされる(こういうのを「世間」というので、日本にしかないな…

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) アマゾン・レビュー

表題作星1つ 、2021/06/16郝景芳作の表題作を読んだ。未来の話らしく、富裕層と貧困層で太陽に当たる時間が違うという動く都市を舞台としているが、SFらしいのはその設定だけで、単なる富裕層と貧困層の分離を描きたかっただけに見えた。要するに社会主義国…

「アメリカ人」の謎

「ロデリック・ハドソン」のレビューを書いていて改めて『アメリカ人』というのは何だったんだろうと思った。 私は英文科へ入ってすぐ、アメリカ文学専攻の渡辺利雄先生の授業で、ジェイムズの『アメリカ人』を読まされたのだが、これがちんぷんかんぷんだっ…

ヘンリー・ジェイムズ「ロデリック・ハドソン」 (講談社文芸文庫)アマゾンレビュー

初期の名作星5つ -、2021/06/161988年、駒場の行方先生の大学院の授業で読んだのだが、この時初めて私は英語の読み方というのが分かった。内容もちゃんとした小説で面白く、英文科時代に読んだ「アメリカ人」とはだいぶ趣が違った。ジェイムズは最初はこのく…

宮川朗子ほか「フランス大衆小説研究の現在」アマゾンレビュー

フランスに閉塞しすぎでは星3つ -、2021/06/11「純文学と大衆文学の区別があるのは日本だけだ」などと言う人がいるから、こういう研究は貴重だ。もっとも全体としてあまりにフランス文学に議論が限定されていて、ドイツではとか英米ではどうかという視点がま…

それくらい分かるだろう

ボクたち大阪の子供やでェ youtu.be youtu.be「貸本屋さんのキミちゃん」がままごとに入れてほしいと思っているが言い出せずにいるくらい分かるやろうといつも思ってしまう。

音楽には物語がある(29)歌謡映画(2)中央公論5月号

一九七〇年代になると、映画の斜陽産業化が決定的になり、日活がロマンポルノ専門の映画会社になるが、その一方「日本沈没」とか「エクソシスト」「ジョーズ」などの話題映画が結構観客を集めるという現象も起きる。だが歌謡映画はおかしくなる一方だった。 …

「いっせいげこう」の思い出

枡野浩一さんの「みんなふつうでみんなへん」が送られてきた。内田かずひろさんが絵を描いていて、子供たちのちょっとした勘違いをオムニバス形式で描いている。それで私もちょっと思い出したことを書いておく。 1971年の4月、私は茨城県水海道から、埼玉県…

「影との戦い」ほかアマゾンレビュー

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)アーシュラ・K・ル=グウィン 分からない星1つ 、2021/06/06読んだのは20代半ばで、まだ少年文庫ではなかったが、妙に暗くて説教臭く、娯楽小説的な面白さを感じなかった。それきりになっていたが、アニメ化された…

岩波少年文庫の悲しい思い出

『岩波少年文庫のあゆみ』というのを図書館で借りて来た。巻頭にカラーで装丁の変遷が載っていたが、私にとって思い出深いのは中学校へ入る前の1974年から始まった箱なし、カヴァーなしの軽い装丁で、これで「水滸伝」全三冊なんか買ってきて読んでいたもの…

スタンリー・ホートンの「村の祭」

スタンリー・ホートン(Stanley Houghton、1881-1913)は、英国の劇作家である。 Stanley Houghton - Wikipedia その代表作「ヒンドル・ウェイク」は、1910年の作である。 Hindle Wakes (play) - Wikipedia 題名は「ヒンドル村のお通夜」とでもいうのか、こ…

田山花袋の次女

近松秋江は昭和二年三月の『不同調』「文壇総ざらへ」に、田山花袋について、息子の先蔵が父親の若いころのことを実行したわけだねと書いているが、これは長男・先蔵が、大学の教授の吉江孤雁の娘に恋慕して、吉江宅を訪ねて面会を強要し、警察に捕縛された…

反論になっていない論法

「日本人論の多くはインチキだ」 →「しかし多くの人が日本文化論を愛読している」(飯嶋裕治) 「上野千鶴子や宮台真司はまともな社会学じゃない」 →「だが世間の多くの人は上野や宮台を社会学だと思っている」(三浦淳・新潟大学) 「天皇制は身分制度だか…

2020年度小谷野賞

沢山美果子「性からよむ江戸時代」岩波新書 馬部隆弘「椿井文書」中公新書 (奨励賞)高木まどか「近世の遊廓と客」吉川弘文館(高ははしご高) (短篇小説賞)岡崎祥久「キャッシュとディッシュ」『文學界』2020年8月

「ウルトラマンA」の観られなかった日

1972年の金曜日のことである。学校から帰って、夕方から、母と一緒に自転車で出かけ、保育所から弟を受け取り、「マルヤ」というスーパーで買い物をして帰路についたが、すでに六時半を過ぎていたんじゃないかと思う。私は七時からの「ウルトラマンA」に間に…

船津行の謎

2002年2月の『文藝春秋』に「80人の心に残る鮮やかな日本人)」という特集があり、作家などが短文を寄せている。なかで吉村昭が「寒風に立つ男・ 舟津行」というのを寄稿している。これは1968年、吉村が、心臓移植手術を扱った「神々の沈黙」の取材のため南ア…

著書訂正「大相撲40年史」

53p(多賀竜の優勝)一二枚目という下位では初めて→1961年夏場所の佐田乃山の一三枚目での優勝以来 56p「北天佑が初優勝」→「二度目の優勝」 74p「三賞独占ということはなくなった」貴花田が三賞全部とったという声があったが、この時は貴花田以外に受賞…