岩波少年文庫の悲しい思い出

 『岩波少年文庫のあゆみ』というのを図書館で借りて来た。巻頭にカラーで装丁の変遷が載っていたが、私にとって思い出深いのは中学校へ入る前の1974年から始まった箱なし、カヴァーなしの軽い装丁で、これで「水滸伝」全三冊なんか買ってきて読んでいたものである。

 ところが中学一年のある日、50歳前後の国語の教師が、岩波少年文庫を勧める趣旨の話をして、こんな風に箱に入っていて、と言ったから、私は「今は箱はないです」と言ったのだが、教師は新しい装丁を知らなかったらしく、「あ、図書館にあるやつはね」と言ったので、私は

 ガーン

 となった。おそらく私が、そうじゃなくて、今は装丁が変わったんですと説明しても、教師は知らないから「ふーん」としか言わなかっただろうし、私はむしろ、図書館では箱なしで置いてあるのを、私が売っている形だと思っているほどバカだと思われたことがショックだったのである。