船津行の謎

 2002年2月の『文藝春秋』に「80人の心に残る鮮やかな日本人)」という特集があり、作家などが短文を寄せている。なかで吉村昭が「寒風に立つ男・

舟津行」というのを寄稿している。これは1968年、吉村が、心臓移植手術を扱った「神々の沈黙」の取材のため南アフリカケープタウンを訪れた時に会った、日本領事のことを書いてある。それが舟津行(すすむ)である。

 まだアパルトヘイト時代の南アフリカで、日本人を守るために働く舟津の姿を称えたもので、それからほどなく舟津は定年になったというから、1915年くらいの生まれであろうか、ところが吉村も、舟津の出身地とか学歴とかは知らなかったのか書いていない。2002年当時は存命だったのかもしれないが没年も不明で、割と錚々たる顔ぶれが並ぶこの特集で、舟津一人が、生没年も履歴も不明な人なのである。