音楽には物語がある(12)二つのルンバ 中央公論2019年11月

 「みんなのうた」に、私が高校生のころ放送された「メゲメゲルンバ」というのがある(うた詩織、作詞藤田詩織、作曲古田喜昭)。昔ペルシャに、空飛ぶじゅうたんに乗って事件を解決するスーパーヒーローがいたが、ケーキが好きで食べすぎたため太ってじゅうたんが飛ばなくなり、山にこもってシェイプアップ、その間けっこうな年月がたち、やせてじゅうたんに乗って戻ってきたら時代が変っており、誰もがじゅうたんで空を飛んでいて、白と黒のじゅうたんで警官が「スピード違反だ」と言って追ってきて、「ただの人」になってしまったヒーローが、ケーキ屋のおじさんになって昔話をしているという童話風の歌で、詩織という人の歌い方は、のち古田が作曲してヒットした「ウェディングベル」に似たところがある。テレビ放送の際の画面は軽い感じのアニメだった。
 別に好きな歌というわけではなかったのだが、それから二十年ほどたって、私はようやく、これが昔の「コーヒー・ルンバ」というヒット曲のまね、あるいはパロディであることを知ったのである。「メゲメゲルンバ」の作者側としてはそのことは大前提だったのだろうから、気の毒なような気さえする。似てはいるが盗作ではないという感じで、「ウキウキ」「ムード」という言葉が共通している。
 「コーヒー・ルンバ」は私が生まれる前の一九六一年に、ザ・ピーナッツが歌ったもの(あらかはきよし作詞)と西田佐知子が歌ったもの(中沢清二作詞)がリリースされている。原曲はベネズエラのホセ・マンソ・ペローニが一九五八年に作詞・作曲した「モリエンド・カフェ」で、それを甥のアルパ奏者のウーゴ・ブランコが演奏して世界的にヒットしたという(ウィキペディア調べ)。もっともリズムは厳密にはルンバではなく、ブランコが生み出したオルキデアというものらしい。また日本語版では西田佐知子の歌った歌詞のほうが広く知られているが、いずれも日本のオリジナル歌詞である。
 よく知られた西田の歌詞では、昔アラブの偉いお坊さんが、恋を忘れた男にコーヒーという飲み物を教え、男はコーヒーでたちまち元気になり若い娘に恋をしたというよく知られたものだが、「恋を忘れた」とはどういうことか。年とったという意味か、あるいは失恋してもう恋をする気にもならなくなったということか。だいたいコーヒーにそんな効能があるとも思えないが、コーヒーはその苦みによって鎮静効果がある、という文章も見たことがある(松山巌『乱歩と東京』だったと思う)。
 こういうのがアラブ・ペルシャのイメージなのか、とも思うが、日本でヒットした中東風歌謡曲といえば、やはり久保田早紀(現・久米小百合)の「異邦人シルクロードのテーマ」(一九七九)だろうが、この曲、一番の歌詞だけ見ると普通の恋愛歌なのである。久保田自身は「白い朝」として作詞作曲したのが、編曲の萩田光雄が、中東風のアレンジをし、二番もそれにあわせて久保田が作ってああいう曲になったのだという。当時私は高校二年生だったが、歌う久保田があまりに美貌なので、周囲では、あれは元不良だなどという噂が立った。まあちょっとそう見える顔だちだったせいもあろうが、あまりに美しいのでそうでも考えないと耐えられなかったという面もあろう。
 それにしても、ああいう前奏と伴奏をつけると「中東風」になるということは、誰が発見したり発明したりしたのであろうか。ほかにも、中国風の曲とか、南米風の曲といったものがあるが、それが海外や日本で誰がどのように発明していったのか、調べて書いた本などはないものであろうか。