2020年9月23日に日本でレビュー済み
21年前、私は『江戸幻想批判』を出版したが、当時は、近世において性はおおらかだった、聖なるものだったという言説が流行しており、従軍慰安婦にからめて日本を批判する著作はあったが、本書のような一般書はないに等しく、孤独に近い戦いだった。本書では、一茶の性交記録、東北の村での離縁、産科医の記録、島根の隠売女の記録など、性の裏面を詳細に描いている。やっと「江戸幻想」とおさらばできそうだが、本書も、「売買春」のかわりに性買売」という語を使い、「買う男」に対して批判的である点で、客観的な歴史学からやや逸脱している。隠売女の摘発について、買った男は処罰されないとあるが、買った男は住所姓名を記録してはいないのだからそれは当然だ。また一か所だけ、近世の自由恋愛によるセックスを賛美するかの文言があるが、適切な避妊技術のない時代にそれはない。
参考文献にデビッド・ノッターの本が挙がっている理由は不明だが、残念なことである。