質問内容:「とかく女の好むもの 芝居 浄瑠璃 芋蛸南瓜」、という言葉は、検索すると西鶴のものとされていますが本当でしょうか、出典は何でしょうか。
回答:まず、「芋蛸南京」という言葉を複数の表記でインターネット検索したところ、
詳細は不明なものの、大きく分けて以下のような説が確認できました。
(1)井原西鶴の浮世草子が出典というもの
(とくに『世間胸算用』を出典とする説も複数あり)
(2)落語が出典というもの
(3)川柳が出典というもの
そこで、以下の通り、順に検証を行いましたが、
結論から申し上げますと、明確な出典は確認することができませんでした。
(1)井原西鶴説
→「世間胸算用」が掲載されている『対訳西鶴全集 13』(井原 西鶴/著、明治書院、1975年、913.52イ)
の巻末に、主要語句索引がありましたので、
「女」「芝居」「浄瑠璃」「芋」「蛸」「南京」のすべての語句について確認してみましたが、
該当する箇所はありませんでした。
また、本文も全体を通して確認しましたが、やはり該当する箇所は見受けられませんでした。
(念のため、別の出版社による他の複数の版も参照しましたが、やはり同様でした)
なお、「世間胸算用」ではない作品が出典である可能性もあるかと思い、
上記の明治書院版『対訳西鶴全集 18 総索引』でも各語句を検索しましたが、
同じく該当するものはありませんでした。
(第7巻「武道伝来記」、第11巻「本朝桜陰比事」、第12巻「日本永代蔵」の3冊は
「芝居」または「浄瑠璃」の使用箇所があるようでしたが、貸出中等のため確認ができませんでした。
ただし「蛸・鮹」という項目でこれらの巻は拾われていないため、おそらく該当箇所ではないと思われます)
(2)落語説
→『米朝落語全集 第2巻』(桂 米朝/著、創元社、779.1カ)の「親子茶屋」のマクラの部分に、
「女の好きなもんはというと、関西では昔から、芝居、浄瑠璃、芋、蛸、南京と、こない言う」(P.52)
という一節があります。また、第五巻の「狸の賽」のマクラにも、同様の記述があります。
しかし、この言い方から考えると、この落語が成立したときには
すでに関西では「芝居、浄瑠璃?」の表現が普及していたと思われますので、
落語が発祥という説は可能性が低そうです。
(3)川柳説
→杉並区立図書館の蔵書の範囲内で、川柳に関する複数の辞典・事典類を検索してみましたが、
該当する項目は見受けられませんでした。
上記のように、(1)?(3)の説には確証が得られなかったので、
改めて国語辞書、ことわざ、故事成句の事典類を参照しましたところ、
次のことわざ辞典に、出典の表記がありました。
・『故事俗信ことわざ大辞典』(北村 孝一/監修、小学館、2012年、R813.4コ)
→P.136「芋」の項に、「芋章魚南京 女性の最も好む物。〔日本俚諺大全(1906?08)〕」とあります。
しかし、『日本俚諺大全』は杉並区立図書館では所蔵しておりませんでしたので、
出典を直接確認することはできませんでした。
『日本俚諺大全』は、『ことわざ研究資料集成 第7巻』(ことわざ研究会/編、大空社、1994年)
という資料に収録されているようで、東京都内では足立区の図書館などで所蔵しています。
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(後記:『日本俚諺大全』は一切典拠などは書いてなかった)