笑わせるぜ中島岳志

 東京新聞の一面に、中島岳志が自著での橋下徹の批判の削除を求められ、拒否したという記事が、かなりでかく出ていた。削除を求めたのはNTT出版で、新潮社から出した『リベラル保守宣言』だという。
 思わず私は苦笑せざるをえなかった。というのは、私はエッセイ集『猫を償うに猫をもってせよ』を白水社から出した時に、中島を批判した文を削除させられているからだ。
 出版が最終段階に入った時、編集者から、上司が会いたいと言っていると連絡があった。こういう時の「上司が会いたい」は、いい話であるはずがない。わざわざ会って不快な話を聞くくらいならと、私は電話してその上司を呼び出し、構わないから言ってくれと言った。上司は(名前を忘れてしまった)中島岳志と中島さおりを批判した個所を削除してほしいと言ったのである。
 不快ではあったが、編集者に迷惑をかけることにもなるし、どうせその二つは別のエッセイ集に入れればいいと思ったから呑んだ。しかし白水社とはそれまでである。ところであとになって、中島さおりを批判したのはポプラ社から出た本で、さおりは白水社からは文庫クセジュの翻訳くらいしか出していないことに気づいた。だがさおり、および直木賞作家の中島京子の父母の中島昭和と中島公子は白水社からいくつかの翻訳を出しているし、ははーんこっちだなと思ったわけ。
 まあ東京新聞としては、それ以前に佐伯啓思による批判の載った本はNTTから出ているとし、『週刊朝日』問題が影響したという意味で、ニュースヴァリューありとしたのだろうが、文筆家ならたいていはこんな目に遭っている。中島岳志東京新聞では連載対談もしていたし、岳志かわいさに記事にしたとしか思えないのである。

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大戸千之の『歴史と事実』(2012)を見たら、冒頭に、「敬称は略した。礼を失すると思う人もいるかもしれないが、従来の外国人研究者は呼び捨てという不自然さを解消したかった」(大意)とあった。これはもしかしたら、外国人は呼び捨てにするような論文を書く連中への皮肉であろうか。