「東京物語」は35年くらい前に観たが、別に面白くなかった。「東京家族」を観たので比較のために観てみたが、子供たちは別に両親に邪慳にしてはいないのだ。仕事もあり子供もいて精一杯やったのである。しかるに戦死した末っ子の未亡人である原節子を美化せんがため、ほかの子供らが冷淡であったかのように描いているのである。
二葉亭四迷は『其面影』を新聞に連載する時、「未亡人問題」を扱おうとした。当時、「二夫に見えず」という儒教道徳で、未亡人は再嫁するべからずとされたのだが、二葉亭はそれに疑問を呈したのである。
しかるに二葉亭よりずっとあとの人間である小津安二郎は、こんな未亡人礼讃映画を作ってしまったのである。実に嫌なことである。