西木正明「間諜二葉亭四迷」

西木正明が死去したので「間諜二葉亭四迷」(1994)を読んでみた。山田風太郎のような架空歴史ものではなく、ほとんど事実に即していて、二葉亭がハルビンから北京へ渡り、田中義一ポーランドのブロニスロウ・ピウスツキ、石光真清明石元二郎、川島浪速らと日露関係で工作を行ったさまを描き、インド洋で没するまでを描いている。

 主人公はむしろピウスツキで、これは直木賞をとった川上宗一の『熱源』でも主人公とされているが、川上のはあまりに雑然としていて、しかも最初に調べたのは西木だろうという気がした。

 「蒲団」を書いた時の田山花袋を「新進作家」としているなどちょっとしたミスがあったが、ベテランらしい落ち着いた筆致に見えた。そういえばあとがきに講談社の岡圭介さんの名前があったが、岡さんは確か2010年ころに若くして死んだ。あの人が生きていたら私と講談社の関係ももっと良かったかもしれない。

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