平山周吉と「おっかない」

 平山周吉というのは、小津安二郎の「東京物語」の主人公の名である。笠智衆が演じた。これをリメイクした山田洋次の「東京家族」では、橋爪功が演じている。「家族はつらいよ」は、同じ配役で、妻の吉行和子が死んだのはなかったことにしてあとを続けたものである。原節子にあたる役をやっているのが蒼井優だが、一貫してこの女性がいい人役で、山田洋次が気に入っているのが分かる。

 この平山周吉の名を筆名にしているのが、元文藝春秋で『諸君!』や『文學界』の編集長だった細井秀雄氏である。文藝誌の編集者で、最初に私に会いに来たのがこの細井氏で、99年6月ごろか、三鷹バーミヤンの向かいの喫茶店で、当時『もてない男』が売れていた私に会いに来て「もてない文学」を書けないかと言われ、割と困惑した。

 その平山氏著になる『江藤淳は甦える』は、『新潮45』連載中は、大方の、江藤淳礼讃かという期待を裏切り、いかに江藤が変人で俗物だったかを描いたもので面白かった。単行本で加筆した分はそれも緩和されてはいたが、元藝者の愛人のことも容赦なく描いていた。

 中に、上野千鶴子らの『男流文学論』を「おっかない」と形容した文があり、これはいけないと思った。これは揶揄である。『男流文学論』は、刊行当時蓮實重彦が批判したのがあって、これが一番まともな批判であり、フェミニズムというのは揶揄ではなくちゃんと批判しなければいけない。私は同書に、なんで夏目漱石がないのかと言いたい。