川端康成の原稿二重売り

 『中央公論』の八月号には、先ごろ発見された川端康成初の新聞連載小説「美しい!」が載っている。その次に川端が連載したのは「結婚なぞ」である。1927年5月読売新聞で、これは全集にも載っている。だが、その連載から二か月もたたずに出たであろう『青年日本』七月号に、この「結婚なぞ」が載っている。ただし最後から二番目の章が削除されている。要するに二重売りである。

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伴淳三郎アチャコが主演する「二等兵物語」という映画シリーズが、1955年から61年まであったということを最近知った。原作は梁取三義という作家の同名シリーズなのだが、その八作目「吹けよ神風の巻」を観た私は、目がテンになってしまった。伴淳とアチャコが軍隊に召集されて、悪い上官から体罰を受ける。だが上官が物資の横流しをしていることを知るが、隊長は内地残留を餌に二人を黙らせようとする。さらに隊長は、部下を容疑者に仕立て上げ、拷問の末に殺してしまう。怒った伴淳とアチャコは副官に報告し、隊長とその一味は軍法会議にかけられる。隊は外地へ出征するが、伴淳とアチャコは残されそうになる。二人は、友達を出征させて自分らだけ内地に残るのは本意ではないと懇願し、出征することになる。
 さて、松竹ホームヴィデオのパッケージにはこのあと、
「伴淳、アチャコの腰抜け二等兵が、終戦間近い内地舞台にまき起こす泣き笑いの珍事件。中隊長とお妾のお色気騒動。海女の悩ましき騒動と、地獄のエンマも大爆笑の傑作」
 とある。だが、この映画を観て大爆笑など出来ないのである。陰惨でかつまじめであり、伴淳は少しも腰抜けに見えないのだ。 
 ここに論文があるのだが、
小倉史「二等兵たちの戦後 : 1959年における喜劇映画の世代交代をめぐって」 愛知淑徳大学論集. メディアプロデュース学部篇:http://aska-r.aasa.ac.jp/dspace/bitstream/10638/1085/3/0037-001-201103-053-066.pdf
ここで小倉は、「アチャラカ」「喜劇映画」という位置づけを行った上で、七、八作目から変化が生じると論じているのだが、果たしてそれまで「喜劇映画」だったかどうかも疑わしい上、脚本を書いた舟橋和郎の言っていることも、それとかみあっていない。
 そこで第一作も観てみたのだが、やはり喜劇ではなく、最後は日本が敗戦を迎え、上官たちが物資を持って逃げ出そうとするのを、伴淳が機関銃で脅しつけ、説教をして涙を流す。
 私は以前、エノケンの出る西遊記などを観て、少しも笑えないのに驚いたことがあるのだが、何か根本的に考え直さなければならないものがあるような気がするのである。