朝日新聞出版のPR誌『一冊の本』で私が一番愉しみにしているのは金井美恵子先生の連載エッセイなのだが、このところ金井先生もなんリベ化したか? と思いつつあったが、四月号は面白かった。
今回は赤坂真理と香山リカを揶揄しているのだが、面白かったのは赤坂のほう。新聞に載った記事から、十代のころ米国にいた赤坂が、「君の名前はチャイニーズ・キャラクターでどう書くの?」と訊かれて、「死ぬほどびっくりした」として、考えてみれば漢字は中国の文字なのに、それに気づかなかった、気づくような教育を受けてこなかった、と書いたのに対して、そんなことは普通に考えれば分かることではないか、と金井先生が書いている。
私もそう思う。少なくとも私はびっくりしたことはない。それにこれが嫌なのは「受けた教育」のせいにしていることで、日本で、歴史を古代から教えるから近現代史にたどりつかず無知になるのだ、などと言う人がいるが、そんなもの普通に新聞や書籍を読んだり、映画やテレビを観ていれば分かることで、教育のせいではない。教育のせいにする人というのは、何か、学校以外では何ら勉強になるようなことはしないのであろうか、と思ってしまう。
私は赤坂が『東京プリズン』で、米国で天皇の戦争責任追及にあってショックを受ける理由がよく分からなくて、江藤淳が受けるなら分かるが、私より年下でそんなことにショックを受けたりするのはなぜなのか考えていて、もしかすると、そういう「家」だったのかなと最近は考えている。つまり祖父母とか両親とかが「天皇陛下」とか言う人であったのだろうか、と。
(小谷野敦)