別冊宝島 現代文学で遊ぶ本』(1990)で武藤康史が「大西巨人老いたか?」という奇妙な文章を書いている。武藤は当時33歳くらいか。映画好きで保守派な感じの文章で知られていたから、大西巨人なんか読んでいるのが意外だったが、パーティで初老の人物から「好きな作家は?」と訊かれて、大西巨人と答えたという対話体なのだが、『神聖喜劇』を蓮實重彦はまだ読んでないと言っていたという話から、『天路の奈落』(講談社1984)をとりあげているのだが、これは『神聖喜劇』と違って、苦労して読みとおす価値があるとは思えない珍妙な作で、大西自身はあとがきで、ジッドの言をかりて、『神聖喜劇』がロマンならこれはsotie(笑劇)だと言っている。しかし共産党をモデルにしたらしい左翼党派の内部抗争をやたらと引用で埋め尽くされた文章で読んでも別に笑えはすまい。中野重治の『甲乙丙丁』ですら私にはバカバカしくて読めなかった。なぜ武藤がこういうものを読んでいたのか、分からない。会った時に訊いておけばよかった。
なお本文はここ http://www.asahi-net.or.jp/~hh5y-szk/onishi/tenro.htm
内容紹介はここにある。http://d.hatena.ne.jp/odd_hatch/20150617/1434491532