父親って誰?

 斉藤利彦『近世上方歌舞伎と堺』(思文閣出版)のあとがきに、家族への謝辞があり、「学術書のあとがきに家族への謝辞など不要との考え方は承知しているが」と断ってある。さてそこで「筆者の歌舞伎研究の原点は四十有余年、歌舞伎の世界に生きた父の背中であり、親方である父の子方として働いた、舞台裏からみた歌舞伎の姿であろうと思う」とあって、裏方らしいがいったい何者かということが気になって、むしろそこを中途半端に出さないでほしいと思った。「子方」というのは、能の用語としては知っているが、これは父が裏方をやり、斉藤自身がそれに付随して歌舞伎の裏方をしたということなのか。
 家族への謝辞はともかく、編集者への謝辞など無用と言う人もあり、その一方で、編集者への謝辞がないなんてなんて無礼なやつだ、と言うのもいる(ただしこれは匿名)。私はまあ、私の本の担当だということで迷惑がかかってはいけないと思って書かないこともある。要するに、謝辞なぞどうでもいいので、当人が好きなように書いたり書かなかったりすればいいのである。この「どうでもいい」というあたりにとどまれないところが、困ったところである。