私は高校二年の時、二葉亭四迷の作品や中村光夫の「二葉亭四迷伝」を読んで、面白く感じたので、逍遙の「小説神髄」や二葉亭の「小説総論」も読みたいと思ったのだが、当時「小説神髄」は岩波文庫で絶版になって久しく、「逍遙選集」でしか読めなかった。その当時越谷市には市立図書館がなかったし、高校の図書室にも果たして「逍遙選集」があったかどうか、いずれにせよ当時は読めずじまいで、「小説総論」は高校の図書室で二葉亭全集でも借りたら、ごく短いものであることが分かっただろうが、その時は長さの程度すら分からなかった。これらがどういうものか知ったのは、大学へ行って、岩波文庫で「小説神髄」が復刊されたりしたあとであった。
(小谷野敦)