美しき冒険旅行(ニコラス・ローグ)中央公論2015年1月

 ジェニー・アガターという女優は、日本ではあまり知られていない。私が
ジェニーを知ったのは、『鷲は舞い降りた』で、チャーチル暗殺を企てるド
イツ兵らの支援のため、いきなり英国の村に現れたアイルランド人役のドナ
ルド・サザーランドにたちまちたらされてしまう変な村娘の役でだった。
 美人一歩手前というあたりが気に入って、気になって調べ、邦題を『美し
き冒険旅行』という「ウォークアバウト」(一九七一)が、出世作であるこ
とを知り、ビデオを入手して観たのである。
 オーストラリアで、父が事業に失敗して自殺する巻き添えにされ、自動車
から逃げ出して生き残った姉と弟。姉がジェニーである。場所は荒野。二人
はサヴァイヴァルの旅に出ることになるが、途次、先住民(アボリジニ)の
少年と知り合う。彼は、成人の儀式としての「ウォークアバウト」の最中で
、荒野で一人生き延びる試練を与えられていた。言葉は通じないが心を通い
あわせ、三人は旅を続ける。
 ここで、大きな池で三人が泳ぐシーンがあり、ジェニーが全裸になる。公
開された時は十八歳にはなっていたが、撮影されたのは十六歳の時らしい。
だが、成人した当人が認めているのだから問題ないだろうし、第一美しい場
面である。
 さて三人は廃屋を見つけ、そこで生活を始めるが、少年はある日、ジェニ
ーを前にして、奇妙な踊りを始める。いささか不気味でもある。ジェニーは
呆然とその踊りを見ているだけだが、翌日、少年が首を吊って死んでいるの
を発見する。映画を観ただけでは分からないが、踊りは求愛の儀式であり、
女の同意が得られなかったことで、少年は成人儀式に失敗したということで
死を選ばざるを得なかったのである。姉弟はその後文明社会へ戻り、ジェニ
ーが人妻になって、あの冒険の日々を追想するところで終わっている。たい
へん美しい映画である。