年上のお兄さんのエッセイ

 若い頃、というのは大学生から院生になりたてのころだが、私は鴻上尚史(1958-)、野田秀樹(1955-)、村上龍(1952-)などのエッセイを愛読していた。具体的には『鴻上夕日堂の逆襲』『ミーハー』『すべての男は消耗品である。』などだが、それらは自分が関心を持っていること、まあ具体的には女のことだが、それについて手のひらを指し示すように面白く語ってくれる感じがした。だが、それらは次第に読み返す対象ではなくなっていった。

 思えばあれは、才能ある年上のお兄さんのエッセイだったのだろう。19歳の男の子にとっては、25歳の男の書くものが、ドンピシャリに面白いという現象がある。それは40歳の男からしたら、どうということのない世間知に過ぎないのだが、19歳には魅力的であるという、そういうことで、私などは晩生だからそれが24歳ころまで続いていた、ということだろう。

小谷野敦