気分転換

 私が新幹線などに乗れなくなっていた96年ころ、鶴田欣也先生と電話で話したことがあった。谷崎潤一郎も書いているとおり、汽車が怖くて乗れないというのはこの病気をしたことのない人は理解してくれないことが多いので、そこはぼかして、精神状態が良くない、と話したら、「気分転換に外国でも行ったらどうだ。カナダとか」と言われたのでまったく困ってしまったことがある。もちろん飛行機なんかさらに怖くて乗れないのだ。
 しかし、外国へ行くと気分転換になるというのは、今でも分からない。私は外国へ行くとたいてい不安になる。たぶん外国へ行きたがる人というのは、恋人とか友人とかといっしょに行くのでそれが楽しいだけなのだろう。
 だがさらに私には「気分転換」というのがよく分からない。私が精神的に不安定になるのはたいてい何かを待っている時で、その待っているものが来ない限り、何をしても無駄なのである。