永井龍男の災難

 私は永井龍男文化勲章をとるほどの作家かどうか疑わしいと思っている。当時、左翼作家が多くて勲章を辞退した結果、永井に回ってきたのだろう。

 その永井が1974年から76年1月まで『小説新潮』に連載した身辺雑記『身辺すごろく』の最後の回を読んでいたら、永井が鎌倉での知り合いの死去に際して「彼ほど波乱の多い人生を送ったものはいないだろう」(大意)と書いたら(これは林房雄のことだろう)、ある人から手紙が来て、「私のほうが波乱の人生でした。妻の病気で困っているとき、あなたに金屏風を売ろうとして(以上大意)あなたに冷酷な、茶化し的返事をもらったのを忘れていません」とあった。これは五年前に、永井がある宿に泊まったら金屏風が立ててあり、そこから何だか金が漂い出してくるような気がして、金屏風を手に入れたいと思っていると新聞に随筆を書いたら、二人の人から金屏風を売りたいという手紙が来て、その人には丁重な断りの手紙を書いたということで、永井は慌てて、釈明の手紙を書いたという。人間、どこで何があるか分からないものである。

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