昨日、割と分厚い、250枚くらいある製本原稿が届いた。未知の人である。私小説であるから、出版社へ紹介してくれというのである。裏表印刷で縦書きの横長判である。「あとがき」が長くて、これまで五十軒以上の出版社へ持ち込んで断られた経緯が書いてある。
 要するに「キ」なのだが、時おり私に送られてくる、ネットをそのまま印刷して製本した、といった本格的「キ」ではない。一応文章の体裁は整っている。中卒で、40代か50代だろうが、今のところ生年とか、妻(がいる)とどう知り合ったか、といったことは書かれていない。今のところ、というのは、全部読んでいないからである。
 まずこの方、私が書いたものを全然読んでいないらしい。こないだのH君もそうだったが、この方の場合、あちこちへ原稿を持ち込み、相手が内容について怒った、とかその類のことをあとがきにつけたしてどんどん長くするのが趣味らしいので、返事はしないことにした。
 怒る、というのは、文学賞とか今の文壇を痛罵しているつもりらしいからで、人がこういうのに怒ると思っているらしい。だが、読んでも全然面白くなくて、この程度のことなら私の本にも書いてある、というのと、あとはルソーとか昔の西洋の文学者の名前がやたら出てくる。その割に、ドナルド・キーンを偉い人だと思っていたりするから、甘い。
 あと、東大卒がこの世を仕切っていると思っている。官界はそうかもしれないが、近ごろの歴代総理を見たって、文壇を見たって、もうそうではないことは分かるはずである。大学教授なら本を出してもらえると思っている。だいたい、自分の小説を本に出来ないでブログに連載している私に、こんなものを送ってくるのだから、おかしくて畳バンバン、である。
 それで肝心の本文だが、これが面白くない。裁判になったとか弁護士がどうだとか、暴力をふるったとか賃金を払ってもらえなかったとか、パチンコに狂ったとかそんな話ばっかりである。私小説を書くなら、まずどうやってオナニーを覚えたかとか、女を知ったかとか、そういうことを書くもんだ。

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http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120904/t10014755041000.html
なんか、変なニュースである。1962年にノーベル賞委員会のハリー・マーティンソンが来て、日本にもノーベル文学賞候補者が三人いる、と言っている。これは谷崎、川端、西脇順三郎だとされていて、そんなことは前から知られていたことで、林武志が驚くはずはないのである。