以下、図書館というのは公共図書館なのだが、教育学の本は、鉛筆の書き込みが大変多い。私は図書館の本に鉛筆の書き込みがあると、それを消すのが趣味なので、必要もないのに消すために借りてきたりする。談志師匠が写真のへりを切るのが好きだったのと似た奇癖であろう。
 全体にわたって傍線やらかっこやらが書き込んであると、おのずと消しながら読むが、実にくだらないことが書いてある。だいたい70-80年代のものだが、受験競争の弊害とか、叱ることとかしつけとか、教育ママとかマスコミの影響とか、まあ新聞に書いてあるようなことしか書いてなくて、時おり西洋の学者の言葉が引用されたりする。学問的価値はゼロに近い。『青年心理』とか『児童心理』とかいう雑誌に、こういうものが載るらしい。
 すると、私の目には、この書き込みをした人の姿が浮かんでくるのである。30代半ば、短大卒くらいのお母さんで、子育てに悩み、かといって家は貧しく、図書館でわらにもすがる思いで借りてきて、鉛筆片手に懸命に読んだのであろう。しかし教育学者というのは学者の中でもとりわけ偽善的だから、バカな子供の頭はよくならないとか、グレる子供は生まれつきそういう素質を持っているとか、両親がバカだと遺伝するとか、そういうことは口が裂けても筆が折れても書かないから、こういう本は何の役にも立たないのである。