実はこの本は50年前の1974年に出て、すぐうちの父親だかが買ってきて家にずっとあった。もう両親ともとうに死んで今私が初めて読んだ。星新一のショートショートその他を面白いと思ったことはないが、これは立派な本で、これで何も賞をとらなかったのは不思議だ。嫉妬か。
小金井良精は東大の解剖学の教授で、森鴎外の妹婿であり、娘の夫が星一、星新一の父である。1944年に87歳の長命を保って死去。何しろずっと日記があったのを星が発見して書いているから羨ましくさえある。若い頃の血尿は、結核であったことが没後判明する。人格者であったらしく、解剖学から発して人類学に手を伸ばし、日本人の祖先はアイヌではないかという説を立てた。そのためかアイヌの椎木という青年に頼られたりしたが、この話がそれだけで小説になるくらい面白い。あとは研究室の小使に対する親切な態度など。越後長岡の朝敵となった藩の出身で、最後のほうでは縁戚に当たる山本五十六に面会したりしている。