映画「あのこと」レビュー(私小説作家のポジショントーク)

アニー・エルノーの「事故」の映画化だが、製作はエルノーノーベル賞をとる前である。私はエルノーノーベル賞は、私小説は日本だけのものではないことを知らしめるのに良かったと思って歓迎しているが、小説自体をさほど高く評価しているわけではない。

 これは1950年代、まだ大学生のヒロイン、おそらくエルノー自身が、当時違法の妊娠中絶をする話で、ホラー映画風である。私は妊娠中絶には反対だが、それは、植物人間になっているのを殺してはいけないなら胎児も殺してはいけないだろうという論理的要請からそうしているので、前者は殺人だが後者は殺人ではないという人は論理的錯誤に陥っていると言うほかない。結局は、若いうちからむやみとセックスをするな、するならちゃんとコンドームを着けろ、と言うに尽きる。