いなくてもいいんだが

 A賞での田中慎弥が話題だが、まあ候補になるたびに下関から上京していたのならそれはご苦労さまで、何も上京しなくたって家で待っていれば良かったのである。昔は全員が待機なんてことはなくて、小川洋子なんか岡山からコメントとっていた。振興会ないし文春では、都内待機してくれと言うだろうが、それに従う必要もないのでね。
 まあしかし、新聞記者のみなさん方におかれましては、記者会見の間じゅう煙草を吹かすような受賞者より、朝日毎日あたりでは攻撃していいことになっている都知事の悪口を言う候補者のほうがずっと扱いやすかったことでしょうよ。 

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佐藤賢一の小説『褐色の文豪』を読んだ。大デュマの伝記小説で、2006年文藝春秋刊なのにまだ文庫になっていないのは、売れなかったのか。なかなか面白かったのだが、佐藤の西洋歴史小説は、登場人物がまるで日本の現代人みたいに見えることが多い。あと校閲も疑わしく、「喧々諤々」なんてのが出てくる。あとのほうでは正しく「喧々囂々」になっているのだが。あるいは「銃の木霊」(谺)とか、「オノレ・ドゥ・バルザック」とか。「ドゥ」ではまるで「du」のようだ。「金字塔」なんて語も平然と出てくるが、これはピラミッドを日本で呼んだもので、19世紀半ばのフランス人が使うと変。文章も「アレクサンドル・デュマともあろう大家に文学の洗礼を施したのは」とか変だ。あと、オーギュスト・マケがデュマの下書きをしたというのが重要な点なのだが、「盗作」と何度も出てくる。これは「代作」の間違いだろう。
 フランス語のできる人なのだろうが、日本語にもちょっと気を配ってほしい。

褐色の文豪

褐色の文豪