「瓜二つ」か?

 「1990年文藝春秋刊『紙の中の黙示録』(佐野眞一著)の38P〜43Pは1988年文藝春秋刊『新東洋事情』(深田祐介著)の70P〜73P(文庫版)と瓜二つで大宅賞選考委員だった深田」が怒ったと、猪瀬直樹がツイートしていた。
 そこで確認してみた。いずれも、不法滞在のバングラデシュパキスタン、インドからの労働者について、荒川駅、板橋区で取材したものである。出だしに「京成線荒川駅」があったり、「女性の製本業者」が出てきたりするところは確かに似ているが、瓜二つというほどではない。特に佐野は、1988年5-6月に起きた、不法滞在外国人労働者の摘発を受けて取材しており、深田著は、87年7月から88年4月まで『文藝春秋』に連載し、4月に刊行されたものだから、この摘発はまだ起きていない。「女性の製本業者」は、深田著では入国管理局への不満を少し口にしているが、佐野著では、摘発を受けたあとだから怒りをあらわにしている。深田著には「板橋区」とは書いていないが、佐野は書いていて、独自に調べたものと思われる。
 つまり、87-88年に問題になったアジアからの不法入国労働者について、同じ対象を取材した、ということになる。佐野は深田著を読んでいただろうが、瓜二つというほどに似てはおらず、荒川駅で始まり、女性の製本業者が出てくるところが同じだが、同じ対象に取材したらそうならざるをえまい。私はむしろ「瓜二つ」という書き方で、佐野が深田の本を丸写ししたように書くことのほうが問題だと思う。なかんずく、このタイミングで佐野を叩くというのは、橋下への援護射撃にしか見えないのである。