「文學界」の四月号に、河野多恵子と山田詠美の対談が載っている。河野先生が芥川賞の銓衡委員を降りるらしい。既に読売文学賞、谷崎賞は辞めていて、これですべて降りるということだ。谷崎崇拝者である河野先生がいなくなるのは、心細くもある。
冒頭、山田詠美が、女が銓衡委員になったのはとか、女はどうたらとか盛んに訊くのだが、河野先生は、そんなことはないねえ、みたいにサラサラかわして、遂に山田が「フェミニズムというものから、あらかじめ解放されていたということですね」とよく分からないまとめをする。まあ小説の世界では、実は女性差別というのはあまりないのである(生島治郎のように、小泉喜美子に執筆を禁じる、みたいなことは別として)。
そのあと、芥川賞はあくまで作品本位で、この人はそろそろあげよう、みたいなことはしない、極めて公明正大であるという話になる。うーん、それにしては納得のいかない銓衡は多いのだが・・・。
ところで、1998年頃から、芥川賞候補作は、五大文藝雑誌に載ったものに限られるようになった。それ以前は、同人誌など、どこからでも候補になったもので、新聞記事でも、そう書いてあったことがある。だから、『小説トリッパー』とか、太宰治賞受賞作などは、候補にならない。ところが、さる文春の編集者曰く、それはたまたまそうなっているだけだ、というので驚いた。そうなると、銓衡以前に、誰が候補作を決めているのかということが気になってくるではないか。
ところで生島治郎の話は、自伝的小説『浪漫疾風録』に書いてある。ところがこの小説は、主人公たる生島だけが「越路」という変名で、あとは田村隆一、福島正実、都筑道夫、田中小実昌など全部実名である。ところが「生島治郎」というのは筆名で、小泉が本姓だから、主人公も実名にすると、デビュー前の話なので本名にする必要がある。小泉喜美子は、生島と離婚したあとも、生島の本姓を筆名にし続けていた。
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大学関係の集まりの案内が来ても、最近では大学構内で催されることが多く、そこはまず全面禁煙だから出席できない。こないだ、珍しく大学外での催しがあったが、上野精養軒で、ここは全館禁煙なのを知っていたから断った。非常勤で東大へ行ったって、ゆっくり吸える場所なんかありゃしない。そういう禁煙ファシズムの世界的蔓延にかくも鈍感なのが大橋洋一。
http://d.hatena.ne.jp/rento/20060923#1159156923
大橋よ、その「あっちゃん」とやら(女子学生をこういう風に呼ぶのはセクハラとちゃうか)の中産階級的エゴイズムに気づくことなく、よくもまあリベラリストぶれるものである。「禁煙」空間をむやみと広げる権力の存在にあなたは気づかないのか。英文学会会長になるそうだが、私はもう退会している。ああよかった。
(小谷野敦)