ディーノ・ブッツァーティ「タタール人の砂漠」

ブッツァーティの「タタール人の砂漠」が岩波文庫で人気があるらしいので読んでみた。私はブッツァーティの名は日本では比較的早く知っていたほうで、1987年に、大学院一年の時、平川祐弘先生のイタリア語の授業に出て、二学期からブッツァーティの作品を読んでいたのだが、全然歯が立たなかったのは、単に私に語学のセンスがないからである。その時、本を見てもブッツァーティの生没年が分からなかったので、先生に、この作家は生きてるんですか、と訊いたら「さあ?」と言われた。その作品が何だったか、当時の記録を見たのだが分からなかった。

 これまでにももしかしたら「タタール人の砂漠」を読もうとしたことがあったかもしれないが、だとしたら退屈なのでやめたのだろう。もし忙しい時だったら、百ページくらい読んでやめていたはずだ。しかし、クッツェーの「戎狄を待ちながら」に似ているなあ、クッツェーがパクったなと思いながらもつらつら最後まで読んで、まあ面白かった。だがこれは純文学的面白さで、ゆったりと読んでじわりと面白く感じる、そういう面白さで、これに比べたらバルザックも通俗小説になる体のものである。

 軍隊に入ってただ年をとっていくということが寓意的に描かれていて、「イワン・イリッチの死」を長くしたようなものだ。1940年の作で、60年代になって評価されるようになったという。ブッツァーティの没は1972年だから、私が読んでいた時は故人だったわけだが、65歳で死んだので、長生きしていたらノーベル賞くらいとったかもしれない。

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