佐藤実枝「マリヴォー「偽りの打ち明け話」翻訳と試論」

18世紀前半のフランスの代表的喜劇作家マリヴォーの作品の新訳と、詳細な注、そして解説(試論)から成っている。翻訳のほうは、人物のセリフやしぐさに関する細かな注がついており、主人公が真剣に恋しているのか、金目当てなのかが議論になる作品だという。

 しかし、学術論文ならこれでいいのだが、体裁は一般書として出されていて、それだと妙なところが細かすぎる。特に最後の上演史のところは、専門家以外にはかなり無用の長物であろう。それと、当時人気のあった喜劇作家のダンクールというのが名前が出てくるのだが、この作家は翻訳もないし、論文すらないから、ダンクールとマリヴォーがどう違うのか、一般読者にはまったくと言っていいほど分からない。

 著者はあまりにもマリヴォーの「専門家」であり過ぎて、モリエールはちょっと出てくるが、ボーマルシェシェイクスピアといった日本人にもなじみの深い劇作家とどう違うのかといったことを概観していないから、一般書として読むとものすごく偏ったものを読んでいる気がしてしまう。

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