青山文平『底惚れ』の感想

 元は純文学作家だった著者は、徳川時代についてもよく調べが行き届いているが、言葉遣いが独特で、時代小説というより純文学っぽい。これも、若い大名の妾だった女を送っていく途中で刺された男が、女を捜すために岡場所の楼主をやるという変わった話で、短編を発展させたものらしく、中央公論文藝賞柴田錬三郎賞をとっている。そのせいか「まじか」とか「ってか」みたいな現代語みたいな言葉が入る。「まじ」は徳川時代にもあったが「まじか」はあったか。それで読んでいくと、昭和30年ころを舞台とした話を徳川時代へ移したような風情がずっ感じられてならなかった。もっとも山本周五郎も、アメリカ映画を元ネタにしたものが割と多いので、日本の時代小説はもともと借景小説なのかもしれない。

 

小谷野敦