『ちくま』5月号の保坂和志の連載で、15年前というから1996年、芥川賞作家というので講演をした後の宴席で文部省の役人が、「私はミステリーは読むが純文学は読まない。中でも××××さんが好きで、会った時にファンですと言ったら、文部省のお役人が私の本など読んでくれるとは光栄ですと言ってそれから本が出るたびに送ってくれる、と言ったから、社会批判もする硬派な××××がなんて迎合的な作家かと思った」(大意)とあってその後に(あ、間違った×××だった)とある。
高村薫か・・・・。保坂は、文部省の役人がそんなことを言ってはいけない、昔はシェイクスピアなど読んだが現代日本の小説にはどうも関心がもてない、くらいのことを言わなければいけないと怒っているのだが、私もかつて、外務省のエリート女性官僚が「好きな作家は宮部みゆきさん」と新聞の一面で言っているのを見て、そういう時代になったんだなあといくらか嘆息ぎみに書いたら、それは純文学作家などあげたら国民の反感をかうからでは、などという意見があったが、私は実際にそうなのだと思う。
その昔中村真一郎が、純文学の新しい試みはもうない、と書いた時、当時小説を書いていた某は、それには同意しないと言っていたが、私は中村が正しいと思う。ただ別に新しくなくてもいいではないかと思っているだけである。
ところで鈴木貞美が、SFは差別されて星新一は直木賞をとれなかった、と書いていて、ここは普通筒井康隆を挙げるところなのだが、その後「純文学作家」として評価された筒井は挙げたくなかったのであろうか。
伊藤計劃『ハーモニー』が英訳されてディック賞を受賞したそうだが、健康ファシズム批判をふんだんに含んだこの小説が英訳され評価されたことは、ものすごくめでたい。
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そういえば高山宏が東大の助手時代に、図書室にある本のレファレンスカード作りに熱中したという話があるのだが、あれは本というものは必ずしも読まなくても、どういう主題の本がどんな風に存在するかということを知るだけで勉強になるのだということを示している。
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中村真一郎が私小説はダメだと言いつつプルーストが私小説であることに気づかなかったというところからどえらい錯誤が始まったと思うね。
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