脚本家・橋本忍が監督した『幻の湖』は、公開当時不入りのため早期上映
打ち切りになったが、その荒唐無稽な内容のためカルト映画と化したもので
、私も好きである。
『光る女』は、小檜山博の原作を相米慎二が映画化したもので、当時それ
なりに評価はされたのだが、これもかなり珍作である。
小檜山は北海道出身の作家だが、ここでは、北海道から東京へ出てきた、
いわば原始人みたいないでたちの大男が、夢の島とおぼしいゴミの山の上で
、クラシックの歌を歌っている女を見出すところから話が始まっている。原
作もざっと読んだが、ややピンぼけで前衛的ともいえばいえる。
大男を演じたのは、プロレスラーの武藤敬司で、この人がまた私には某出
版社の辣腕編集者Kさんを思い起こさせる。そして女のほうはジャズ歌手の
秋吉満ちる(現在はMonday満ちる)で、秋吉が船の上で、クラシック調で美
空ひばりの「港町十三番地」を歌うところがまた見ものである。
「東京へ行ったまま帰ってこない許嫁を探しに北海道からやって来た大男
が、歌を歌えなくなった美しいオペラ歌手との真実の愛を見つけるまでを描
く」というのが映画のほうの紹介文なのだが、観ていても、「そうだったの
か」としか思えない。
だいたい、そんなきっちりした筋があるとは思えない、どちらかというと
コラージュ的な映画で、安田成美も婚約者役で出ているのだが、これが筋と
してどうなっているのか、うかうか観ていると分からない。だから、筋を楽
しむというより、イメージを楽しむ映画と言うべきだろう。
小檜山博は、この作品で泉鏡花賞をとり、あと両親のことを描いた『光る
大雪』で木山捷平文学賞をとっている。マイナー作家のようだが、全集も出
ているのが驚きである。相米は比較的若くして死去、秋吉満ちるは米国でMo
nday満ちると名のって活動しているらしく、武藤は「グレート・ムタ」の別
名も持っているようだ。