夏樹静子の初期長篇『蒸発』の冒頭で、離陸した飛行機から、乗ったはずの乗客が一人いなくなっているというトリックが出てくる。けっこう複雑なトリックだったが、「コマンドー」でアーノルド・シュワルツェネッガーは、離陸した飛行機から車輪脇の出口を使って難なく脱出している。
私が初めてシュワルツェネッガー(以後シュワ)を観たのは「ターミネーター2」で、これがキネマ旬報ベストテンに入っていたからである。意想外に良かったので、1や3も観た。むしろ感動したといっていい。
本連載も最終回なので、それなら「ターミネーター」シリーズについて語るのが筋だろうが、ここはあえて娯楽大作「コマンドー」である。なお監督のマーク・レスターは子役で知られた人とは同名異人である。
シュワはかつて米軍の部隊の長だったメイトリックスで、今は引退して山荘に住んでいるが、突如襲撃されて娘(アリッサ・ミラノ)を人質にとられる。かつて南米の国で
クーデタを起こした独裁者アリアスを追放して大統領を立てたのだが、そのアリアスが襲撃してき、娘を人質にして、南米のその国の大統領を殺してこいと命じる。
シュワは監視一人とともに飛行機に乗せられるが、これを難なく殺して飛行機を脱出、娘を取り戻すべくアリアスのアジトへ向かう。
飛行場で戻ったところで、敵の一人がちょっかいを出した女(レイ・ドーン・チョン)を利用するのだが、この女が最後までシュワの協力者になる。見ているとただのわき役かと思ったのが重要な人物になるあたりもうまい。
最後は一人で敵のアジトに乗り込み数百人を相手に戦う。荒唐無稽でも、どこか筋が通っていて、娯しませてくれる。私は「純文学」派だと思われているので、こういう娯楽映画が好きだと意外に思う人がいるようだが、ちゃんと面白ければいいのである。ところがこの、ちゃんと面白い娯楽映画を作るというのが意外と難しいというわけである。