明日の幸福

 「明日の幸福」はユーモア作家・映画原作者の中野実の昭和29年の戯曲で、藝術祭賞、毎日演劇脚本賞などを受賞している。新派の持ちネタで、筋は以下の通り。
http://www.shochiku.co.jp/shinpa/works/yaeko10/05.html 
 しかし原戯曲には脇筋があり、寿敏は家庭裁判所の判事で、そこへ内山という三十歳の男が離婚調停を申し出てきている。妻が結婚時に処女でなかったというのだ。ところが妻に聞いてみると、そのことは結婚前に打ち明けたという。調べていくと、どうやら姑が嫁を嫌い、勝手に離婚させようとしており、息子もそれに逆らえないらしい。寿敏は母親に、戦後の民法では姑が嫁を離縁するなんてことはできないのだと説得するが、結局、姑と別居することで決着がつく。
 何ともだらしない男だなあ、と、曽野綾子の『木枯しの庭』とか、山田太一あたりのドラマを想起していたら、実はこの三十男、無職で、母親の財産で生活していたのであった。それで寿敏が父親に、職を探してやってくれ、と言う箇所があって、ぶったまげた。その当時はそんな人間がこの日本に存在したのか、と思うのであるが、今でもどこかにそういうのはいるのかもしれない。これは映画化されているが、恐らく最近の上演ではこの脇筋は割愛されているのだろう。 

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著書訂正
東海道五十一駅』124p「日替わり定職」→「定食」

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中山義秀は三回結婚している。最初の妻は病死し、その後、真杉静枝と結婚したのだが、敗戦をはさんで数年で別れ、三人目と結婚した。しかるに、真杉との結婚を中山は隠蔽しようとしており、師の横光利一を描きつつ自伝的でもある『台上の月』では、みごとに真杉との結婚はなかったことにされている。真杉といえば、武者小路実篤の愛人から始まって、中村地平の妻みたいなもの、中山の妻と遍歴した「悪評の女」だが、中山、そこまで真杉と結婚していたのが恥ずかしかったのか…・。
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