大岡信の戦い

 前に書いた気がするのだが、私が国際日本文化研究センターの井波律子先生の研究会に出ていた時か、新聞記者の女性が、なぜ日本の新聞には短歌・俳句欄があるのかという発表をしていて、その女性は、大岡信に電話して訊いてみたら、大岡が怒声を発し、「私はもうなん十年もああいう欄と戦っているんですよ!」と言ったという。

 いまその大岡の「折々のうた」を、短歌、俳句、詩に分割して岩波新書で刊行しているのだが、これって大岡の戦いを無にするものではないのか。

小谷野敦