『すばる』10月号に、倉橋由美子をめぐる、豊崎由美、栗原裕一郎、岸本佐知子の鼎談が載っている。私は倉橋というのは結局大した作家ではなかったと思っているのだが、最近なんだか幻想趣味か何か、森茉莉とか尾崎翠とかと似たような感じでリバイバルしているらしい。まあ出版社の戦略とかもあるのだろう。これは公開鼎談だった。
中で、江藤淳が初期に倉橋を批判したのを、栗原が、江藤はその時の気分で、龍はダメ、康夫はいい、とか言うところがあったから、と説明していて、私も確かに田中康夫を褒めたのは変だと思うが、それは『江藤淳と大江健三郎』に推定を書いておいた。しかし倉橋については、当時大江、開高と並んで人気があり、江藤としてはいくら何でも大江のほうがはるかに上だと思って批判しただけだろうし、現に倉橋がいやらしい口調で江藤に反論した時、大江が江藤の代わりに反論している。
あと豊崎が、倉橋の『大人のための残酷童話』がベストセラーになって、江藤は憤懣やる方なかっただろうと言っているが、それはないだろう。『大人のための残酷童話』は、出た時にはそれほどでもなかったのに、五年くらいたって妙に売れるようになったのだが、要するに『あなたの知らないグリム童話』なんかと同じ文脈で売れただけで、江藤にとっては純文学作家としては完全に終わった倉橋のことなんかどうでも良かったであろう。
『夢の浮橋』だけは私は面白いと思うのだが。