身内は呼び捨て

 もう昔のテープで、円生と八代目正蔵(彦六)がリレーで「累ケ淵」をやったのがある。円生のあとを受けた正蔵は「ただいま円生が申し上げましたとおり」と言ったが、何も円生が年下だから呼び捨てにしたのではなく、お客さまに対しては身内だから呼び捨てにしたのである。
 しかるに最近、身内の者を平然と「さん」付けで呼ぶ者がある。さすがに一流企業で、「富坂さんは今外出しております」などと言うやつはいないが、困るのはNHKのアナウンサーで、同じ局のアナウンサーを「さん」付けで呼ぶことがある。まあ概して「誰それアナウンサー」だからいいのだが、呼び捨てだと何か変だという戦後のへんてこな民主主義に毒された視聴者の意識への媚が時折みられる。
 それで、1993年に民放でやった「落語のピン」という番組で、林家たい平が抜擢された。この時たい平は、自己紹介がてら「名前を見ても分かりますとおりわたくしの師匠は、日曜5時20分から、他局で、ちゃら〜ん、とやっております。あれ・・・」と言って自分の頬を叩き「あれ、じゃねえや、あちらが私の師匠で」と言ったのである。呆れた。師匠といえども、お客様の前では身内であるから、「あれ」のほうがむしろ正しいのだ。ギャグとして間違っていると言うほかない。
 まあさすがに13年も前のことだし、見ていたこん平は、この「間違いギャグ」をたしなめたことだろう。若い人は、くれぐれも注意してほしい。父親や母親を他人に向かって「お父さん」だの「お母さん」だの言わんで欲しい。