「三丁目の夕日」のダメさ

 昨日、評判の映画「ALWAYS 三丁目の夕日」をビデオで観て、あまりのひどさに怒りさえ覚えた。単に昭和33年の東京の町並みを再現しただけで、シナリオはチープで傷だらけだし、あの時代特有の臭いや貧しさというものがまるで伝わってこない。だいたい小日向文世が「お前はこれから一流品に囲まれて暮らすんだ」と言って万年筆を返させる箇所など、素人がシナリオを書いているとしか思えぬ。社長をするほどの人間がそんな低レベルに人の気持ちを無にするようなまねをするわけがない。全編これ、出来の悪いマンガなみの筋立てである。
 私は学生時代、西岸良平の『夕焼けの詩』が好きで、かれこれ十数冊は読んでいた。『三丁目の夕日』は読んでいないが、あれはだいたいあの顔がいいのだし、「原作」と銘打っていてもまるで別物だろう。西岸には『赤い雲』のような優れたホラーもあった。何より、あの横長顔にもかかわらず、女性が時おりとてもセクシーになるのがすごかった。『宇宙船サジタリウス』のアン教授みたいな感じ?
 話を戻すと、この映画を若い人が観て感動し、「昔は貧しくても心が豊かだったんだ」などと言っているのを見ると、悪質な陰謀ではないかとすら思う。「江戸幻想」ならぬ「昭和30年代幻想」である。「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」は、むしろ昭和40年代にノスタルジーを感じる大人を描いて、ちゃんと風刺になっているのだから、まるで別ものである。
 だいたい吉岡秀隆は東大卒で作家を目指していて、少年読物で原稿料を得ていて駄菓子屋すら持っているのだから、お坊っちゃんである。自動車修理工場の堤真一だって、何のことはない中流階級である。
 若者よ、こんなアホ映画観て、あの時代はこうだったのだなどと勘違いするなかれ。「女中っ子」とか「喜びも悲しみも幾年月」とか「裸の太陽」とか、当時の映画を観よ。黒澤の「どん底」や「どですかでん」を観よ。
 ああ読売グループによる悪しき洗脳の陰謀を感じずにはいられない。