澤地久枝『密約』

 澤地久枝『密約 外務省機密漏洩事件』を岩波現代文庫で読んだ。中公文庫で読みたかったのだが、そちらのほうが高値だった。帯に「付 沈黙を解く(2006年6月のあとがき)」とあるから、何が書いてあるのかと期待したが、別に何も書いてなかった(に等しい)。
 沖縄返還時の密約と、沖縄に米軍がいることとは何の関係もない。米軍を減らすかなくすかしたいなら、憲法を改正するのが筋だろう。
 もっとも、『運命の人』に比べたら、蓮見なる女についての記述がより客観的で好著であった。が、こう書ける澤地にして、『昭和史のおんな』における志賀暁子事件の扱いで、久米正雄の文章の引用が不適切であったのはいかなることかと訝しんだ。世間が情に流されている時に、情に流されない本書を書いたのはいいことだが、『妻たちの二・二六事件』は、これに対して、主題の選び方そのものにすでに情に流れるものがあり、よくはなかった。私は二・二六事件青年将校たちには、三島由紀夫に対すると同じ方向性での憎悪しか持っていない、せいもあろう。

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東大イタリア文学教授の浦一章先生は『新生』という訳は不適切で、「ヰタ・ノワ」とすべきだと言っているが、はて。
 

密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)

密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)