駒井稔ほか「文学こそ最高の教養である」アマゾンレビュー

三点

題名からして胡散臭いし、古典新訳文庫の宣伝だろうと思ったが、思ったよりはいい本だった。編集者の駒井が、聴衆のいる場で翻訳家から話を聴くというシリーズ。中条省平が、ロブ=グリエの「嫉妬」は退屈なので二度と読みたくないとか、ロブ=グリエ夫人の変さとかの話は面白い。だが高遠弘美の話にはたまげた。プルーストの話をしているのに、同性愛者だったという話も、だから小説中のアルベルチーヌは実は男で、アルベルチーヌのレズ行為は実は異性愛だったのだという話をまったくしない。高遠が、そういう伝記的事実を無視するという意向らしいが、これはひどいプルーストの伝記を四つも紹介しているのに、岩波から出たエドマンド・ホワイトのを無視しているのは、これが同性愛に堂々と触れているからか。こうなると高遠が同性愛者差別者なんではないかと思ってしまう。あとナボコフのところで、貝澤哉が「川端康成もそういう少女(愛好)趣味の小説を書いていますし」と言っているが、「伊豆の踊子」のことか? トーマス・マンのところも、「ヴェニスに死す」みたいな有名な作品を知られざる作のように語っているのは何かモヤるし、「欺かれた女」も嫌な小説だと思う。あとメルヴィルに関しては、その女性嫌悪に触れなければ「モービィ・ディック」を語ったことにならないんじゃないか。またショーペンハウアーのところで、63歳で書いたというのは今で言えば80代、90代で書いたようなものだとあるが、平安時代にも80代90代まで生きる人はいたのでちょっと大げさである。それを逆にすれば、平川祐弘の、80代の天皇は今では60代と同じだからまだ働けるという暴論になる。