「上から目線」って何?

 まあどうせネット用語などというのは、各人ばらばらの定義で使っているのだろうが、「上から目線」というのをこないだ言われて、まるで意味が分からなかった。そいつは、私が「××」を読め、と言って、それで相手が読むと思うのが上から目線だと言うのである。まるでわけが分からん。誰かと議論をしていて「××を読め」と言われたら、私は、読む。少なくともざっと目を通すくらいのことはする。ただ、『正法眼蔵』を全部読め、と言われたらそれは困る。
 「上から目線」と言われて私がすぐに想起するのは、本田由紀である。自分は東大教授の地位にありつつ、ニートやら何やらに怒りをこめて同情しているのは、もうこれはあれだ、中条百合子の「貧しき人々の群れ」に出てくる、中産階級の婦人連と同じだ。しかし、そういう意味ではなく使う人もいるようだ。
 はてなキーワードによると、「自分のことを棚に上げて、他人を見下すような姿勢や言説のこと」と書いてあるが、この前段と後段のつながりが分からん。後段だけなら分かるが、そりゃバカがいたら私は見下す。何が悪いか、である。しかし「自分のことを棚に上げて」と来ると、これは分からん。この言葉は、自分もまた何か悪いことをしているのに、それを棚に上げて他人を非難する、といった時に使う語で、「見下す」のになんで「棚に上げる」がかかるのであろう。
小谷野敦