仙台文学館から『井上ひさしの世界』のパンフレットを送ってきた。石原千秋大江健三郎樋口陽一小森陽一らが寄稿している。見れば見るほどムカムカする。誰も「天皇」の「天」の字にも触れない。
 私は『紙屋町さくらホテル』を褒めた(このパンフレットでは「神屋町」と誤植されているところがある)。しかし、純粋な観劇というのはないのであって、作者が天皇の茶会に行った時に、この劇は愚劇になったのである。
 一時の気の迷いで行ってしまったなら、懺悔すればよろしい。しかるに、今度は藝術院賞恩賜賞を貰ったのである。恩賜賞である。いったい誰からの恩賜だと思っているのか。「恩賜上野動物公園」という不思議な正式名称のあの恩賜である。なくなってしまった恩賜の煙草の恩賜である。「あおげば尊しわが師の恩」の恩師ではない。
 藝術院会員を辞退した大岡昇平を礼賛したのは誰か。小森や大江はどの口でこんな文学者を礼賛できるのか。いや、最近は潮匡人が井上を罵倒していたが、それがおかしいのだ。「左翼」こそが井上を罵倒すべきだろう。
 紫綬褒章を決然と断った唐十郎がいかに偉大であるか。先見を誇るわけではないが、私はもう20年も前から、唐十郎は偉大だと思い、井上ひさしは下らんと思っていた。
 黒古一夫は、井上が天皇の茶会に行ったことを知らなかったと言う。では文化功労者になったことも知らなかったのか。黒古の周囲には言論統制でも敷かれているのか。加藤周一木下順二が死ぬと、こんなことになるのか。ところでそのパンフレットの最後の「協力」のところに「佐藤優」とあったのは、あの右翼佐藤優だろうか。何しろ米原万里と仲が良かったからなあ。

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「童貞放浪記」が八月ロードショー、とあったので、はてなと思ったのは、ロードショーというのは東宝とか東映が複数の映画館で大々的に封切り上映することだと思っていたからで、調べてみたら昔はそういう意味もあったようだが、今は映画の上映なら何でもロードショーらしい。しかしウィキペディアの記述は簡単すぎるだろうし、名画座で古い映画を二本上映したりするのをロードショーといったら違和感がある。

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旧著訂正。『評論家入門』175p、松本清張が「朝日新聞」の書評欄で自著を匿名で批判されて論争になり、名乗れ名乗れと言ったが名乗らなかった、とあるのは間違い。
 正しくは、ノンフィクション作家・牛島秀彦が、自著『藤原義江』(読売新聞社、1982年7月)を、1983年1月22日朝日夕刊「土曜の手帖」で「Q」なる者に、間違いだらけ、と論難され、2月2日夕刊で牛島が反論、Q2月5日、牛島9日と続いたものである。牛島は『現代の眼』5月号に「朝日新聞の釤超人”匿名家Q氏へ」を書いて、朝日対読売の戦争に巻き込まれたのだ、と書いている。
 同じ頃松本清張が『青木繁坂本繁二郎』を書評欄で批判されて反論していたので、記憶に混乱が生じたらしい。誰も指摘してくれなかった。